古いコートは脱ぎ捨てて
No.19 / 2008年4月1日配信
真新しい黒いスーツの若い男性が、広いストライドで横を抜けていきます。ネクタイの締め方に若さを覗かせているので、おそらく新入社員でしょう。4月、ビルの谷間に新鮮な表情が溢れ、街が一気に若返ります。証券会社のガラス窓には自分の姿が映っています。歩幅が少し狭くなったのかもしれません。背中も丸くなったでしょう。そこにはいつの間にか、外見を気にしなくなった自分がいます。
入社式、張りつめた雰囲気の中で、多くの若者が「組織のトップ」の言葉に頷きます。社会人の仲間入りをした「歓迎の言葉」と限りない可能性を持つ「若さの素晴らしさ」が語られ、「積極的に挑戦する姿勢」と「社会人の責任」という甘えられない話に伸びる背筋。これからは何事も自分の力で切り開いていかなければならないのです。頑張れ、ルーキー達! 逃げ出したくなるような局面にも幾度となく出くわすだろうけど…。「明日、世界が滅びるとしても、今日、君はリンゴの木を植える」と開高健は色紙に書きました。
4月が訪れる度、新入社員が街に溢れる度に「今年こそは」と、これまで出来なかった項目がいくつも浮かび上がってきます。居心地の良い古いコートを脱ぎ捨てる時が、自分の人生にも訪れているのです。少しオーバーかもしれませんが。さっそく、私は伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」のキャップをひねります。
「また、儀式かい? 儀式ばかりじゃねぇ」と神様の声が聞こえます。