西瓜のある風景

No.32 / 2008年8月11日配信

 スーパーの果物売場でカット西瓜が赤い顔をして私を見つめています。いろいろ理由があって、大玉一個買うわけにはいきませんが、どうしても夏の盛りに食べたくなる果物です。重量の90%以上が水分だという、瑞々しい爽やかな甘さが手招きをします。糖度13度と書かれたシールが貼ってあるのできっと甘いのでしょう。私は魅入られたようにカット西瓜を手に取り、財布の中から500円玉を一枚抜き取り、レジのお姉さんに手渡しました。

 西瓜は夏の風物詩のひとつとして幼い頃の記憶に結びつきます。兄弟の数が多くて、一人当たりの分け前が少なかった時代です。少し強めの夕立に湿気の残る縁側、隣の家から流れる、音声だけのプロ野球中継。磁器の風鈴がチリンと鳴き、蚊取り線香の煙が揺らぐ時間。時々しか味わえない、夕食後の貴重な「大人数のデザートタイム」の始まりです。薄切りにされた真っ赤な西瓜は、差し出された多くの手によって、すぐになくなってしまいます。もっと食べたい思いを抑えながら、最後の種を庭に向かってピュッと飛ばしていたのを思い出します。

 大きな西瓜を腹一杯食べてみたい。半分に切った西瓜にスプーンを立てて気がねなく食べてみたい。そんなことを今でも本気で考る自分が可愛くて、笑ってしまいます。「あら、丸のまま買ってきたの。今、冷蔵庫には入りませんよ」と我が連れ合いのそっけない声。10年前のその声以来、私の夏は悔しいけれどカット西瓜ばかり。そういえば、西瓜のために小型冷蔵庫の購入を考えたこともあったなぁ。と、未だに実現できない「丸ごと西瓜激食い作戦」。残念な気持ちを今日も静かに受け止めてくれるのは伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」しかありません。とかなんとか、理由を付けて今夜もとくとくとく。

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