新 米

No.72 / 2009年9月21日配信

 わずかな仕送りはとうに底をつき、頼みのアルバイト代も使い果たした後に待っているのは「腹ぺこ地獄」との戦いです。一袋35円の味噌ラーメンを極力太らしてありがたく食べる、一日唯一の食事。余力のない故郷の実家に「お金がないので至急送ってくれ」とお願いするわけにはいかないのです。辛抱、辛抱。ずいぶん昔、大学2年の秋の話です。

 学生アパートの公衆電話代までも節約していた私にも、重要な情報はしっかり届くので不思議なものです。久しぶりの講義から学生アパートにフラフラとたどり着くなり、管理人のおじいさんから「F君から電話があったよ」と声を掛けられました。早速、10円玉を握りしめてピンクの公衆電話に向かいます。北陸出身の友人に、故郷の親から米が届いたという話です。

 やった!友人F君の実家(農家)からの新米です。すぐに食塩の小ビンをポケットに突っ込んで友人のアパートに。ワンダーフォーゲル部に属していたF君はコッフェルの蓋を皿にして、炊きたての白く輝くご飯を僕に差し出してくれました。湯気が立つアツアツのご飯に食塩をぱらりとふりかけ、無言でご飯だけを食べ続ける二人。「ふ~っ、旨かった」「そりゃそうや、新米やからな」「ごっつい贅沢やったな~」「そやけどお前、なんでか塩だけは持っとんやな」 いまだにその味が忘れられません。それでこの収穫の季節になると、必ず新米を楽しむようにしています。ずいぶん交流が途絶えて久しいけど、F君は元気にしているかしら。伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」をやりながら学生時代を思い浮かべます。ところで、秋になると丹波篠山の実家から、どっさりと松茸を送ってもらっていたアパートの先輩は今は何処に?松茸も旨かったな~。少し気になる季節です。

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