鏡開き
No.83 / 2010年1月11日配信
あっという間に終わる正月休みの後、すぐに訪れるのが「鏡開き」です。松の内が明ける日(私のところでは11日)に鏡餅を割って食べる行事ですが、「ぜんざいを食べる日」として記憶に残っています。正月に「年神様」を迎えるお供え物が「鏡餅」で、年神様が滞在される期間が「松の内」。その松の内が明けると年神様の宿った鏡餅をいただいて、無病息災を祈るのが本来の習わしの意味だそうです。
松の内が明けるからということで、鏡餅を割って「ぜんざい」や「しるこ」にして、社員に振る舞う職場は今でもあるのでしょうか? 若い頃の私の職場では、女性社員が腕を振るってくれたおかげで、毎年甘くて美味しいぜんざいにありつけていました。甘い物に興味がなかった当時の私にも、その甘さは優しく、嬉しかったものです。しかし、それと同時にほろ苦さも味あわせてくれた、忘れられない行事でもありました。
女性社員のぜんざいを配る仕草が一人の男性社員に対してだけ、やけに丁寧に見えます。少なくとも私にはそう見えました。その女性は私が密かに好意を寄せている人でした。「う~ん、先輩に気があるな、この娘は」と、力なく肩を落とした日。すぐには立ち直れない未熟な私がいました。職場の机の上にパソコンはなく、かわりに灰皿から置きタバコの煙がモクモクと立ちのぼっていた時代の話です。
家人が小ぶりな鏡餅を透明なプラ容器から取り出して、出刃包丁で切ろうとしています。「鏡開きでは、鏡餅は割らなくてはいかんのだよ」というと、無理なこと言わないでよ、と抗議の声。まあ、いいか。私のために自家製おかきを作ってくれているのだし、文句は言えません。塩味にしようかな、醤油味にしようかな? 出来立てのおかきには、伝承かめ壷造り・本格米焼酎「昔気質」がいいかもしれない。ちょっとだけ、口中に広がる優しい揚げたての旨さを想像してみました。