寒ブリ
No.84 / 2010年1月21日配信
冬になると脂が乗り、ぷりぷりとした身の食感とまろやかな旨味で食卓を飾る寒ブリ。刺身醤油にブリの刺身が触れると、さ~っと醤油の表面を走る脂。脂肪分が多いのに、イヤな脂っこさを感じさせないのが寒ブリの凄いところです。大きめの刺身を口に放り込む幸せ感はたまりません。富山湾の冬のブリ漁が全国的にも有名なので、「ブリ好き」としては、一度くらいはぜひご当地で食べてみたいものです。
最近はマグロ人気に押され気味とはいうものの、やっぱり九州では旨くて縁起の良い出世魚の「ブリ」をたくさん食べる傾向に変わりはありません。以前に一度、熊本の天草に旅行した際、地元の民宿風旅館に泊まったことがあります。宿の主人が「珍しなかバッテン、今夜はこれで」と断りながらブリの刺身を出してくれました。大皿に立体的に積み上げられたブリだけの刺身を見た私は思わず絶句、凄い量です。
量の多さにたじろぐ私たちに、「村の若いもんはこんくらいペロッと食べるもんな」と宿の主人は涼しい顔。頑張ってブリ刺しのピラミッドを壊し始めたものの、積まれた刺身はすぐには減ってくれません。村の若いもんに負けないように、また主人のサービス精神に泥を塗らないようにと、懸命に食べ抜いた「美味しい苦しさの記憶」は今でもしっかりと残っています。
切り身の塩焼きや照焼き、カマの塩焼き、大根と一緒に煮込んだブリ大根など、いずれも味わいは絶品。最近ではブリしゃぶも流行っています。伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」のお湯割りで温かくなりたい季節はやっぱり「寒ブリ」に尽きます。山盛りのブリ刺しを出してくれた旅館の主人の、朴訥ながら温かだった人柄が脳裏をじわっとかすめました。一年で一番寒い時期、温かい記憶を引き出せる時間ほど、幸せなものはありません。