穀 雨

No.92 / 2010年4月11日配信

 冷たい雨の降る季節を抜けて、初夏に向かう柔らかな時季です。今年の穀雨は4月20日。穀雨は穀物の成長に欠かせない春の雨が降る頃のこと。大寒、春分、夏至などと同じ二十四節気の中のひとつで、「こくう」という語感が昔から好きで、その呼び名を忘れたことはありません。3日前の夕食のおかずさえも思い出せないのに、昔憶えたものはなぜか忘れません。とても不思議です。

 冬を越え、 春の優しい季節に育てられた野菜達がいっせいに顔を見せてくれます。先日「筍とふきの煮付け」という旬の味覚を味わったばかりですが、おいしい野菜はそればかりじゃありません。春トマト、春キャベツ、新タマネギ、新じゃが、新ごぼうなど、この季節は旨いものには事欠きません。春野菜の特徴はみずみずしさや柔らかい歯ごたえですが、とりあえずサラダでしっかりと楽しもうと思います。

 20歳の春。すでに新学期が始まっているというのに、体にチカラが入りません。パイオニアのカセットデッキを買うのに、バイトで稼いだ生活費をつぎ込んでしまったのです。FM放送を受信しては、やれツェッペリンだ、ピンク・フロイドだのと、録音に夢中でしたが、お腹が空いてたまりません。これも、好きなことを優先した報いで、次のバイト代が入るのは2週間先です。一日一食、インスタントラーメンの生活。布団にくるまっていることが多かった毎日。そんなところに学生アパートの管理人さんのドアをノックする音が。

 天国への階段を上る夢から覚めた私の目は、管理人さんが手にしている「新ジャガの箱」に釘付けになりました。管理人さんはその年の1月にも帰省できない私の為に、わざわざ餅を焼いて成人式を祝ってくれたおじいさんです。またもや救ってもらえました。私はジャガイモをそのまま蒸して食べるのは嫌いです。どうしても管理人さんの温かさが思い出され、涙が止まらなくなるからです。良い時代だったなぁ。生きておられたら、私は絶対に伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」を贈っていたのに。穀雨、豊かなものを教えてくれた、あの春の優しい記憶。

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