タニン鍋
No.109 / 2010年10月1日配信
「お父さん、タジン鍋って知ってる?」と娘が私に問いかけました。いくら最新の情報に疎い私でもタジン鍋くらいは知っています。しかし私はすました顔をして「ん?タニン鍋か?」と、とぼけた答えを返してみました。「え~っ、そんなんじゃなくって、タジン鍋よ、タ・ジ・ン・鍋。ほら、とんがり帽子のようなフタがついたモロッコの鍋、知らないの?」
娘が友達の家でタジン鍋の「蒸し料理」を食べたら、とてもさっぱりとして美味しかったと言います。「蒸し煮ももちろんだけど、普通の鍋料理も出来るし便利だし、可愛いし!」と、我が家でも買おうよと言わんばかりです。「そんなの、普通の土鍋じゃいかんのか? とんがり蓋が付いていなくても、同じような料理は出来るじゃないか」
娘と同じくらいの歳に、私が学生生活の中で最初に購入した鍋はアルミ製の小さなラーメン鍋でした。当時主食と化していたインスタントラーメン作りに大活躍をしてくれたものです。それに、味噌汁作りはもちろん、湯豆腐・白菜鍋と、一人暮らしの食生活を懸命に支えてくれました。最期は凸凹だったそのラーメン鍋には愛着が湧き、卒業時の処分に困った記憶があります。
「河村君、ちょっと寄らへんか? 他人鍋が出来たとこやさかい」いつも腹を空かしていた私は、管理人さんの部屋に寄ると、牛肉と卵が美味しそうに煮えています。「牛肉と卵で他人丼言うから、ワシは鍋もそないな呼び方しとんのや」私がキャベツ入りのラーメンばかり食べていたことを、管理人さんは知っていました。伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」をカップに注ぎながら、娘との会話を思い出します。「ふふっ、タ・ニ・ン鍋か」