蕗(ふき)の頃に
No.127 / 2011年4月1日配信
出汁とりに使ったいりこが入ったままの「蕗の煮付」の皿が飯台の中央にデンと座っていた1960年代の話です。子供の味覚は大人のように開発されていなくて、苦みを美味しいとは感じにくいそうですが、私は子供当時から土筆や蕗などを好んで食べていました。それでも色彩的に盛り上がらない、醤油色の菜っ葉の煮付けが続けば、さすがに抵抗していたようです。
記憶では「ふき」なのか「つわぶき」なのかはっきりしませんが、とにかくその煮付けを食べようとしたとき、我が家に災難は起こりました。早めに晩酌をはじめていた父が「なんや、またふきか」といいました。すでに父は出来上がっています。「隣からもらったふきやな?稼ぎが少ないからといって、俺への当てつけか?」職場で相当に嫌なことがあったにちがいありません。
飯台の上の蕗の煮付が皿ごとひっくり返されました。まるで野球マンガの星一徹の世界です。「何ということを」と呟きながら台所に走る母に向かって、さらに電気釜が宙を飛びました。いつもは寡黙で優しい父親の豹変。さらに父を睨んだ兄に向かっても「なんやその目は」と矛先を向けます。母は恐ろしくなって泣き出す私と兄の手をとって、すぐに家を飛び出しました。
近くの公園で時間を過ごした後にそっと家へ戻ると、畳の上には蕗の煮付など全てが散乱。母は後片付けをしながら「大丈夫よ」と私たちの肩を抱きしめました。今ではもう家族の笑い話ですが、私が酒を飲んでも決して飲まれたくないという理由も実はこの教訓から。家人に「今度、蕗の油炒めを頼むね!」と声をかけました。伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」との相性もばっちりなので楽しみです。