鯛茶漬け
No.128 / 2011年4月11日配信
それは少しやり過ぎじゃないか、という先輩の忠告を意にも介さず「斬新さ」だけを全面に出して、得意先へのポスター広告の提案を行った、愚かな若い日が想いだされます。ひらめいた「アイデア」に心を奪われ、最後までそのアイデアに固執し、全力で練り上げて提出したものの、結局、得意先の企業理念、社風を十分に理解していないという厳しい非難の声とともに不採用となりました。
その当時、いくつかのコンペに勝って、きっと鼻が高くなりすぎていたのでしょう。プロジェクトチームを任されることも多くなっていました。そんな頃に起こった問題です。永年取引のある得意先から担当者変えの話がきました。担当を前任者である先輩に戻して欲しいということです。得意先の好みと前任者の声を無視するという私の状況判断の甘さに弁解の余地はありませんでした。
すっかり落胆し真っ暗闇の中で喘いでいた私に、一杯やりにいこうと、その先輩は声をかけてくれました。「恥じることはない。失敗したことより、むしろ冒険をおかさない心の方が問題だと思う」といって、慰めてくれました。暖かい先輩の言葉に涙しながら、その時最後にかき込んだのが人生初めての「鯛茶漬け」でした。
春の産卵期前の真鯛は脂が乗って美味しいものです。刺身や塩焼きはもちろん、お茶漬けも絶品。味の染みた刺身にわさびが効いただし汁。初体験の鯛茶漬けにはほろ苦い記憶しかありませんが、もう今では大好物の一つになっています。伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」の入った杯をぐっと飲み干し、わさわさと豪快にかき込む鯛茶漬け。「旨い!」この味の判断はけっして私の独りよがりではありませんよね、先輩。