鶏飯(けいはん)
No.133 / 2011年6月1日配信
一度だけ訪れたことのある奄美大島の想い出として強く心に残っているのは、奄美の植物や鳥の大胆描写で強烈なイメージを与えてくれた田中一村の画と郷土料理「鶏飯(けいはん)」のふたつです。梅雨空の下、キノコの傘を尖らせたようなドーム状の建物が連なる「田中一村記念美術館」の姿が可愛くて、心を和ませてくれました。
アダンの木など奄美に生息する南の島ならではの植物がかもしだす生命力に、すぐさま私は圧倒されました。一村が描いた尖った葉先は凝り固まった既成の画法をあざ笑うように、大胆に細かく自由に表現され、天に地に水平線にその意思を伸ばしています。以前にTVの番組で見たことがあった画の「巨大な本物」の前でふ~っとため息。
田中一村美術館で二日酔の脳みそへの「喝」が入った後に、奄美を気持ちよく案内してくれたHさんは昼食に「鶏飯(けいはん)」を薦めてくれました。棒棒鶏のような細かく裂いた鶏肉や椎茸や錦糸卵がトッピングされた「透明な鶏スープ漬けのご飯」です。濃厚な自然の中で味わうさっぱりした美味しさには完全に心を奪われました。旨い!飲み過ぎの翌日でも、どれだけでも食べられそうです。
鶏飯の味が忘れられずに、料理レシピサイト「クック・パッド」を参考に自分でも作ってみましたが、そのとき味わった味には到底届きません。「それって、お父さん、料理の味はその時の周りの空気も一緒に味わっているのよね」と、娘が偉そうに喋ります。少し癪に触りますが、そうかもしれないと思いながらロックの伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」をゴクリ。しかし、もう一度食べたいなぁ、あの鶏飯を。