栗ごはん

No.145 / 2011年10月1日配信

 「このモンブラン美味しいわね」「駅ビルに新しく出来た店のよ」家人と娘がケーキをつついています。久しぶりの土曜日午後のウォーキングから戻ると、キッチンにはコーヒーの香りが充満。テーブルを見ると、私のためのモンブランが一皿残されています。娘が私のケーキも狙っているのか「お父さん、モンブラン嫌いじゃなかったよね?」とミエミエの質問。

 家人が「今年も栗の旬を迎えたから」とモンブランを購入した理由を口にします。私は栗だったらやっぱり栗ごはんだろう、と返答しました。栗ごはんには母と兄の想い出が詰まっています。幼い頃、弟である私の茶碗と自分の茶碗の中を見比べて、「栗の数が少ない!」と兄が駄々をこねました。弟より少なかったので癪に障ったのでしょう。

 母はすぐに自分の栗を取り出して兄の茶碗に足して上げました。子供に沢山食べさせようと、自分の分として僅かな数の栗しか入っていない茶碗から。そんな優しい母親がこの世から旅立った年の秋、私は実家の仏壇に供えてある栗に気付きました。父親に尋ねると、兄が母のためにと送ってくれた栗だそうです。きっと兄もあの幼い日のことを忘れることが出来なかったのでしょう。

 その夜、父が栗ごはんを炊き、私と二人で食べました。「やっぱり、母さんのようには上手く作れないな」と父はぽつりと仏壇に向かって語りかけました。旬の味覚は家族の温かい味わい。季節が巡り来る度に、様々な想い出が美味しい味覚を伴って脳裏を駆け抜けます。私は父に「もう一杯作ろうか」と尋ねながら、伝承かめ壷造り・本格芋焼酎『幸蔵』の瓶を傾けたのを思い出します。

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