寒稽古

No.191 / 2013年1月11日配信

 高校時代に体育の時間で、武道の選択科目があり、柔道か剣道を選ばなければなりませんでした。私は柔道を選択。面倒な防具を付けなくて済むし、柔道着だけの手軽さが魅力でした。それに、くるっと丸めた柔道着を結んだ帯の片方を手に持ち、柔道着を背中のほうにひょいと投げ出して歩く、スタイルに憧れたことも理由のひとつです。

 「本質とは関係のないところ」に興味を持ち、それを判断の基準にしてしまう悪癖は、若い頃からのものでした。そうやって表面だけで選んだ柔道に、心底熱中できるわけはなく、「もうすぐ大寒や。寒稽古をやるから、来週は早起きして出てこい!ガッツだぜ!」と叫ぶ体育の先生の声は、もう悪魔の声にしか聞こえません。朝7時の畳は冷たいだろうね?と友人も首をすくめています。

 「へそにチカラを入れたら、こんなもん寒くも何ともないっ!へらへらしとるから冷たいんや」と先生は私のお腹をポンと叩きました。「空手の道場の寒稽古は、小さい子でも海の中にザブザブ入っていって、稽古するんだ。北風が強く、雪がモーレツに降っていてもな。お前らはまだ恵まれとる」とか言いながら、柔道の稽古なのに、なぜか剣道の竹刀を振り回しながら道場をまわっています。

 精神的錬磨が目的だった、ということが解ったのはず~っと後、卒業後のことでした。そして、その体育の先生が亡くなったという情報を、今年、友人の年賀状で受け取りました。まるで伝承かめ壷造り・本格芋焼酎『幸蔵』のような、本質を大切にした先生でした。お湯割りをお腹に流し込んだ後、むかし言われたように、へそに少しだけチカラを入れてみました。うん、温かい。ガッツだぜ。

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