いなり寿司
No.197 / 2013年3月11日配信
昼と夜の長さが同じになると教わった「春分の日」。厳密にいえば、本当は昼の方が長いといわれていますが、今年は3月20日になります。この日を過ぎると昼が長くなり、生き物達は暖かい日差しの中で、ノビノビと活動をはじめます。私たちもポジティブな思考で、明るく前を向き歩んでいけそうな気分になるから、春はなんとも不思議です。
春分の日をはさんで前後一週間が彼岸の期間ですが、昔から実家でも彼岸には仏前にいなり寿司やぼたもちを供えていました。甘いものに餓えていた子供のころ、甘辛く味のついたいなり寿司の楽しみは、春分の日の記憶に大きく残っています。アルマイトの鍋がシューッと音を立てています。砂糖醤油で煮込んでいる油揚げの甘い匂いが台所から流れてきて、幼い私と兄に幸せな予感を運びます。
カタコトと精進料理の根菜を切る母の後ろ姿を横目にしながら、兄弟で将棋の対決。「ちょっと待って、こっちにする」と言って、兄が強引に差手を変更しました。「だめだよ、もう」と止めようとした手を兄はぱ~んと払い、簡易将棋盤の上の駒が飛び散りました。兄弟喧嘩を見越していたかのように、母は「いなり、何個食べたい?」と質問をしてきます。さっそく休戦。
そういえば、昨年は用事があってお墓参りに行けませんでした。近所に人気の総菜店ができたので、今年はそこのいなり寿司を持っていこうと思います。しかし、まあどんなに評判が良くても、昔、母が作ってくれたいなり寿司の味には敵うはずはありませんが。キッチンでは伝承かめ壷造り・本格芋焼酎『幸蔵』のお湯割り用のやかんがシューッと音を立てています。