甘鯛
No.306 / 2016年3月21日配信
冬の間が美味しいとも言われる甘鯛。産卵前の春ももちろん美味しくいただけます。甘鯛は「鯛」という文字が付いていますが、「タイ科」ではなく、アマダイ科の魚であり、真鯛とは同じ仲間とは言えません。甘鯛も美味しい魚によく与えられる「タイ」という名前の称号をいただけたわけで、金目鯛と同じ「なんちゃって鯛」なのです。
なんでも、その横顔が尼さんに似ていたから「アマダイ」と呼ばれるようになったとの説もあります。姿は細身の割には頭(顔?)がでかく、ピンク色の魚体は天然真鯛と同じ優雅さを持っています。ただ、肉質が水分を多く含み、脂分が少ない魚なので、同じく淡白な真鯛と比べてもさらに柔らかくてさっぱりしています。
「あなたにはまだわからないでしょうね」ちょっと間違えれば、失礼に聞こえるようなことを、カウンター越しに女将が訊いてきます。「しっかりと昆布で締めて寝かしたものを焼いてるのよ、繊細な味でしょ?」「は、はい。とても美味しいです」と慌てて答えたものの、焼肉、焼肉と叫んでいた二十代。甘鯛のその繊細な味などわかる訳はありません。
俺もいろいろ教えてもらったものさと、先輩が女将さんにウィンク。「お前、甘鯛を見たことがあるか?口をぽかんと開けて、目をまん丸に見開いたところなんか、甘ちゃんのお前にそっくりだ」と私をからかいます。そんな思い出が蘇る桜の季節。伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」と一緒に食べれば美味いだろうな、甘鯛は。やっと本気でそう思えるようになりました。