針金細工

No.320 / 2016年8月11日配信

 前夜、ルーフという屋根ホテル(一度ご紹介した200円ホテル)のコンクリートの上で泊まったせいか、足腰がギクギク音を立てそうでした。パルテノン神殿を見終わった私の気分と身体はなんとか持ち直し、シンタグマ広場に続く路地を早足で歩いていました。早く今夜の宿探しも必要だし、腹も減っています。タヴェルナと読める食堂も気になります。

 乾いた石畳の上を一人の日本人が針金細工の商品を売っています。ヨーロッパの街では販売許可のない(?)若者が手作りの商品を座り込んで売っている姿を多く見かけました。仲間のポリス通報で、「やばい、逃げろ」と店をたたんで逃げまとう姿に出くわしたこともあります。その石畳に座り込んでいる日本人に興味が湧き、声をかけてみました。

 すると、ここで話してもいいんだけど、良かったら僕の泊まっているホテルに来ない?と誘われたのです。その日の泊まるところを決めてなかった私は、その安ホテルを紹介してもらいました。座れる台のない便器、扉が壊れて外から丸見えのシャワー室。一日10ドルの旅には最適なホテルでした。そのホテルで「先生」と呼ばれていた手先の器用な日本人は夢を話し始めました。

 今は手作りの針金細工商品を売って、生活費と次の旅先への旅費を稼いでいるのだそうです。これも何かの縁だからと、私のイニシャルを針金とペンチで作ってくれました。伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」を飲みながら、その時の針金ネームを手にとって眺めます。30年以上前の話だけれど、果たして先生の夢は叶ったかしら。たしか、モノ書きになりたいとか言ってたけれど。

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