三日月
No.336 / 2017年1月21日配信
母親から注意を受けて、感情の整理がつかずにとっさに家を飛び出してしまいました。小学生の反抗期です。「ほっとけ」と父の声が聞こえたような気がします。勢いよく屋外に飛びだしたものの、気がつくとよく遊んでいる小川の土手にたどり着いていました。風のない晴れた夜、暗がりに枯れたススキの穂陰。小さい私は空を見上げます。
しんしんと冷える夜空に浮かぶ三日月。その細い月はくっきりとしてはいるものの、どこか頼りなげです。ひとりぼっちの境遇は重なりますが、決して三日月は微笑みかけてはくれません。やがて、家を飛び出た興奮から冷めてくると、じわりと寒さが襲ってきます。震えとともに心細さも急速に広がり、歯の根がカチカチとかみ合わない状況に陥りました。
自分が悪かったのだろうか。その場で母親の言葉を理解できなかったのは確かでした。どうしたんだろう。私はいつも味方になってくれる、大好きな母の言葉に背いたのです。非があるのはやっぱり自分だったのだろうと思い始めた途端、悔し涙が出はじめました。だんだんと三日月が滲んで揺れてきます。思考が凍りつき、判断ができなくなっていきました。
「そんなに俺のお古のセーターが嫌だったんだなぁ」。大人になってからも兄はその事件のことを笑って話します。いつも兄のお下がりをもらっていた弟の気持ちはわかってくれないでしょう。しかし、よく考えてみると、父親に怒られる回数は圧倒的に兄の方が多かったのです。五分五分だよと伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」が微笑みます。