冷やしうどん
No.499 / 2021年7月21日配信
「お前、この夏は帰ってこないの?」と高校時代の友人の懐かしい声が受話器から聞こえています。故郷から遠く離れた大学に通っていた私は「バイトなので、盆過ぎまで帰れないよ」と、残念でなりませんでした。「ほら、お前もいいねって言っていた『あの子』にも声をかけているんだ。みんなで海に行くのに、ほんとに残念だな」と最後に胸を掻きむしりたくなるような余計な言葉を。
バイトしなくていい奴がいるなんて世の中不公平だな、と言いかけて胸にしまいましたが、悔しさはしばらく収まりませんでした。泳いだ後は海の家で冷やしうどんやカレーを食べて、暗くなったら浜辺で花火とかするんだろうな。悔しさに蓋をしようとすればするほど、もやもや感が募り、ますます平常心ではいられなくなりました。熱帯夜も手伝って、なかなか寝つけません。くそっ。
私のバイトは調理場の中での料理づくりの補助。時給が今では考えられないほど安く、なんと220円でした。しかし、10時間くらいの勤務時間中に、食事を2回、自分で作って食べてよいという条件が私に決断させてくれたのです。和食・洋食なんでもありのレストランだったので、割と自由に色々なものを食べることができ、腹をすかせた貧乏学生にはやっぱりそれが一番でした。
「へぇ、冷やしうどんとか食べてるのかい?」と調理人が私を見ました。「もっと栄養のあるハンバーグとかカツ丼でも作ればいいのに」。私は友人たちと海に行けなかったからとは言えずに、はぁと生返事。伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」が私に囁きます。明日は「冷やしうどん」を奥さんに作ってもらったら。そう、あのキャンプに行けなかったあの子でしょ、奥さんは。