パーフェクトディ

No.590 / 2024年2月1日配信

エンドロールが流れるスクリーンを眺めながら、静かな感動に上気している自分を見つけました。寡黙な映画だっただけに、いくつかの印象的なセリフや喜怒哀楽の表情が、多弁な映画のそれを圧倒するような陰翳の深さでした。第76回カンヌ映画祭で最優秀男優賞を受賞した役所広司さんも、こんなに賞賛される映画になるとは思いもよらなかったかもしれません。

 この映画は日本が誇る「おもてなし文化」の象徴的存在として公共トイレをアピールするためのプロジェクトの一部であったといいます。安藤忠雄さんや隈研吾さんをはじめ、世界中で活躍する建築家やデザイナー参画で設計されたトイレを舞台に、メンテナンスやその日常性を日本文化の映像として、ヴィム・ベンダース監督がPR目的のショートムービーにする予定だったそうです。

 あの「東京物語」で知られる小津安二郎監督を愛し、私のような鑑賞数が少ないものでも観た記憶がある「パリ・テキサス」「ベルリン・天使の詩」の人間愛の素晴らしさを詩い上げた作品を残したヴィム・ベンダース監督。ベルリンでアメリカで、そして今度は東京で傑作を生み出したわけです。日本人の感情、勤勉性、ハイテク時代を巧みに映像に詰め込んだ映画でした。

 役所広司さん演じる平山はトイレ掃除の仕事が終わると必ず銭湯に行き、その後、一杯飲み屋に出かけて酎ハイ(たぶん)を引っかけて家路につきます。毎日毎日、静かに繰り広げられる日常の中でもしっかりと役割を持つお酒の力。私も伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」で胸熱になる時もありますが毎日淡々と、しっかりと締めくくります。これもまたパーフェクトディ。

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