尾頭付き

No.271 / 2015年4月1日配信

 桜のシーズンは別れと出会いの、切なくもあり、また希望も満ちてくる日々。理由はどうであれ、新年度の始まりを4月に設定した先人の感性に脱帽です。3月末にプロ野球のシーズンも開幕を迎え、また今年も新しいドラマを提供してくれそうです。サッカーやテニスも好きですが、小さい頃からキャッチボールで育ったこともあり、私にとっての野球は特別なのかもしれません。

 兄が作ったゲルマニウムラジオからの野球中継に耳を傾けていた幼い頃を思いだします。ガー・ピーと周期的に訪れる雑音の中から、アナウンサーと解説者の声を逃さないように懸命に聞いてました。公式戦初戦の朝は「尾頭付きの真鯛」を食べたという監督の話が伝えられます。私は兄に「尾頭付き」の意味を尋ねました。兄も頭を傾げています。

 サバ等の大衆魚の焼き物・煮物が食卓の主流だった頃、真鯛の尾頭付きは夢の夢です。塩サンマは骨まで炙って食べていた我が家でした。ある日、父が結婚式に招かれ、真鯛の塩焼きをそのまま私たちの兄弟のために持ち帰って来た事を憶えています。淡いピンク色の頭がついた真鯛の身は冷えて固かったけれど、イワシの味と違うさっぱりとした美味しさでした。

 真鯛も最近は養殖がほぼ8割を占め、濃い体色の脂が乗った肉質が主流です。たとえ、あの天然ものの味わいではなくても、やっぱり4月は尾頭付きが一番のお似合い。カルパッチョが一番よ、という娘の声を無視して、今夜は王道の「塩焼き」で迫ります。もちろん、伝承かめ壷造り・本格芋焼酎『幸蔵』が一緒です。こんな時は白身味を引立ててくれる、良くできたヤツでもあります。

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