夜の漂流

No.182 / 2012年10月11日配信

 ヒンヤリとした夜風が少し開いた窓から入ってきます。昼間は半袖でも良さそうな陽気でも、さすがに夜はサラッとした冷気がもう一枚のセーターを要求します。やっぱり、こんな夜はエラ・フィッツジェラルドのボーカルです。エラ・イン・ベルリンのCDを選んでセットし、読み始めて2日目の文庫本を手にしながら椅子に深く腰を下ろすと、さて、何かが足りません。

 すぐに伝承かめ壷造り・本格芋焼酎『幸蔵』のお湯割りを作り、再び本を開きます。その本は「エンデュアランス号漂流(新潮文庫)」という、南極探検に向かう途中で遭難し、極寒の地で漂流するという実話をベースにした百年も前の物語です。英国人探検家アーネスト・シャクルトンを隊長とする28人の乗組員が乗った「エンデュアランス号」が氷の圧力で沈没してしまいます。

 小舟とともに脱出した乗組員全員は氷上移動の苦しみを含め、1年5ヶ月にも及んだ史上最悪の漂流後に奇跡的な生還を果たします。残り少ないビスケットを節約し、アザラシやペンギンの肉を食べ、脂肪を燃料として利用し生き延びます。凍傷の手を殺したアザラシの血まみれの内臓の中に突っ込み、暖をとる姿に圧倒されます。

 いつの間にかエラの歌声は止み、ハッと気付けば、机の上の焼酎カップは空になったまま。3/4程読み終えた文庫本を伏せて、窓の外に目をやります。どんな絶望的な状況下でも、希望だけは捨ててはいけないよと、夜の暗闇がつぶやきました。自分にはそんな強い精神力はないなぁ。ちょっと苦笑いをしたら、もう一杯のお湯割りが欲しくなりました。さぁ、漂流の続きです。

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