砂ずり
No.168 / 2012年5月21日配信
街角の焼き鳥屋から鶏の焼ける香ばしい匂いが流れてきます。腹を空かした仕事帰りにそれを嗅ぐともうダメです。ケータイを取り出して、残っている同僚か後輩に「焼鳥屋で一杯やらない?ほんの少しだけど」と連絡を入れます。「その一杯とか、ちょっととかが命取りになることが多いですからねえ、先輩の場合は」と後輩の警戒声。
焼き鳥の匂いはもちろん、通りに溢れる鰻屋のあのタレが焦げる匂いも罪作りです。1930年代にアメリカのエルマー・ホイラーが言った言葉「ステーキを売るな、シズルを売れ!」って、本当だなぁと、しみじみ感じ入ります。「そこのお兄さん、焼鳥食べていかない?安くて美味しいよ!」という呼びかけより、店先に匂いを流す方がやっぱり効果ありそうです。
ホイラーの法則というか、その匂いと言うシズル感に心を奪われ、「いらっしゃ~い」の声に迎えられながら店内に。そしていつも必ず最初に注文するのが「砂ずり」です。ざくっとした歯ごたえがたまりません。頬ずりをしたくなるくらいの美味しさ。私は焼いたものにポン酢と柚子こしょうをつけて食べるのが大好きです。塩味にレモン汁でさっぱりした味もオススメです。
「『砂ずりの唐揚げ』の美味しい店があるよ、と教えてくれた得意先の方がいました。私にホイラーの法則を教えてくれた方で、会社を離れてもつきあえそうな方でした。しかし、いつかそれを一緒に食べようと話をした矢先、その方は転勤に。いつか、伝承かめ壷造り・本格芋焼酎『幸蔵』で一杯やりましょう、という私の提案も実現できませんでした。ちょっぴり残念です。