母の日デパート

No.166 / 2012年5月1日配信

 ふだんデパートには行かない私も、一年中で一度だけ朝から気合いを入れてデパートに出掛ける日があります。母の日です。実母を亡くしてから、その日は家人の実家の母親と一緒に食事をするための日となりました。最初は家人の手料理でしたが、近年はデパ地下の惣菜がテーブルを飾ります。私はその日の大切な惣菜買い出し係。家人の実家での昼食に間に合うように、朝から大忙しです。

 義母の食事は和食が多いようなので、ハレ気分の洒落た洋食メニューも加えます。ローストビーフ、豆のサラダをはじめ、おいしそうな惣菜を少量ずつ沢山買い込みます。両手に大きな紙バッグを抱えて歩き始めると、昔、デパートに連れて行ってくれた私の母の顔が浮かびます。そして、私の母が大好きだった白玉だんごの老舗の前で必ず足を止めて、つい白玉だんごを買い込んでしまいます。

 幼い頃、私と兄は母に連れられて、はじめてデパートの屋上遊園地に出掛けました。クラスの友達がデパートに行ったことを自慢できた時代の話です。デパートには縁がない家計の状況下で、母は無理して私たち兄弟にデパート体験をさせてくれました。鉄塔のまわりをくるくる回リながら飛ぶ飛行機に乗った後は、最上階のレストランでのお子様ランチ。ほんとうに夢のような時間でした。

 母の日の昼下がり、デパ地下の色とりどりな惣菜がテーブルに並んでいます。しかし、残念ながら今日だけは伝承かめ壷造り・本格芋焼酎『幸蔵』の出番はありません。帰りの車を運転しなくてはならないからです。一年に一度だけ、拷問のような「幸蔵」なしの辛い時間。「我慢することも大切なのですよ」と今はない母の声が聞こえてきそうです。

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