猫に小判

No.144 / 2011年9月21日配信

 春の桜前線は南から北上していきますが、逆に秋の「松茸」の収穫時期は気温が下がるのが早い北から南下を始めます。そして、その松茸収穫前線は秋の深まりとともに、やがてインスタントラーメンばかりで食欲をやり過ごしている学生のアパートにも吉報を届けることになります。その吉報は気持ちのよい秋風が吹いている日に突然訪れることになりました。

 管理人のおじいさんが段ボールの箱を抱えて先輩の部屋をノックします。実家から先輩に送られて来たのはギッシリ詰まった松茸です。先輩は兵庫県の出身で、友人達から「丹波篠山」と呼ばれていました。私にはその地方のことはよく分らなかったのですが、きっと山深い里だったのでしょう。いつも九州出身者の私とともに「田舎者」として愛情を持っていじられていました。

 さっそくその先輩はアパートに備え付けの公衆電話で友人を呼び、私たちアパートの後輩達にすき焼きをする準備を命じます。先輩は松茸を2~3本新聞紙に包んで管理人さんに持って行き、残りをすき焼きの中へ豪快に放り込むのです。貧乏学生だった私たちでも松茸が高価なことは知っていましたが、その味覚の価値まではよく分っていませんでした。状況的には猫に小判、豚に真珠です。

 今、思えばなんという贅沢な経験なのでしょう。「げっぷ」が出るまで松茸のすき焼きを胃袋に詰め込んだ経験を、これまで何回も会社の同僚に話しました。ふふっ、今年もその自慢話をする季節が来たようです。しかし、伝承かめ壷造り・本格芋焼酎『幸蔵』と出会った後は、一度だって家で松茸を味わうことが出来ていません。やっと味が分る歳になったというのに、世の中上手くいかないものです。

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