赤とんぼ

No.142 / 2011年9月1日配信

 「夕焼け小焼けの赤とんぼ~」と歌いながら、田圃のあぜ道を兄と一緒に家路に向かう初秋の夕暮れ。肩越しに兄の顔を見上げると、一生懸命に遊んだ夏の名残で顔は黒く、ちょっぴりですが夕陽に照らされて頼もしく輝いています。この半月ばかり、兄は外出する私のそばを離れようとはしませんでした。

 夏休みに私たち子供はよく集まっては神社の広い境内で、フリーバッティング形式の三角ベースボールをやりました。メンバーはその時々で代わりますが、その神社が隣町との境界近くにあったので、よく知らない小学校の上級生も混じっています。私に楽しみな打席が回って来たその瞬間、「俺の番だろ」と言って、隣町の大きな身体の上級生が私からバットを奪い取ろうとしました。

 みんな怖そうな乱暴者に押し黙ったままです。私は抵抗したものの、結局は突き飛ばされてその場を立ち去るしかありませんでした。我が家の玄関が見えた瞬間、堪えていた悔しさが涙と共にこみ上げてきたのです。「誰にやられたんか?」と泣きじゃくる私に兄は訊ねました。しかし、言いつけることは卑怯者の仕業だと思っていたので、いくら悔しくても家のものに仕返しを頼むわけにはいきません。

 犯人を明かさない私に、兄は「お前がまたそいつと出くわしたらいけないので、しばらくお前に付いとくからな」と言って、夏休みが終わっても私の用心棒を続けました。今でも、赤とんぼを見かける度に「私を守ろうとしてくれた小学6年生の兄」を想い出します。今年こそ伝承かめ壷造り・本格芋焼酎『幸蔵』で一杯やろうと兄への年賀状に書いたのに、もう9月。焦ってしまいます。

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