トウモロコシのひげ

No.138 / 2011年7月21日配信

 いつも小学校へ一緒に通った友達がいました。雨の日も風の日も、学校までの道の途中にある友達の家に寄って、一緒に登校しました。その友達の家は洋風の洒落たれんが造りで、今にも崩れ落ちそうな壁の我が家とはずいぶん違います。お金持ちの家ってすごいな~と、うらやましい気持ちで玄関のブザーを毎日押したものでした。

 ある暑い夏の日、その友達の誕生日に呼ばれました。我が家は誕生パーティなど思いもつかない生活だったので、お祝いに持っていくプレゼント選びに母も悩みました。お金持ちの家庭の子には何がふさわしいか分りません。結局、少し恥ずかしかったけど、ちょうど我が家の縁側の先で実をつけているトウモロコシを、数本ちぎって持っていくことにしました。

 翌年、友達の家の数軒先にある大きな敷地も、実はその友達の家のものだということが分りました。今の家は広くないので、その敷地に新しく家を建てるのだそうです。赤土が盛ってあるその空き地の端には2列にトウモロコシが植えられていました。「君がくれたトウモロコシが美味しかったので、パパに頼んで植えてもらったんだ。赤土でも育つんだって。夏が楽しみだね」

 しかし、友達はその楽しみなトウモロコシを味わえませんでした。父親の経営する会社の都合で、急に家と空き地を手放すことになったそうで、友達は夏休みを前に姿を消すように転校していきました。その夏、主人をなくした空き地のトウモロコシはひっそりとひげを風に揺らしていました。元気かい、元気なら伝承かめ壷造り・本格芋焼酎『幸蔵』を一緒にやりたいな。もぎたてのトウモロコシでね。

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