アラスカ物語
No.135 / 2011年6月21日配信
茶目っ気たっぷりに聴こえるエロル・ガーナーのピアノの音。「コンサート・バイ・ザ・シー」のアルバムが夜の雨音の中で元気を与えてくれます。見るのも嫌になるくらいの混乱状態に陥っている本棚に、今夜こそ「断捨離」を実行しようと勇気を振り絞りながら、恐る恐る手を伸ばしました。倒れて嵩張っている埃まみれの文庫本は日焼けして黄色に変色しています。
その中に「アラスカ物語」がありました。新田次郎が書いたアラスカ物語という本の主人公はフランク安田という実在の人物でした。明治時代に十代で船員として日本を脱出し、アメリカ経由で仕事を通じてアラスカにたどり着きます。そして、エスキモーの村に住み着き、数々の出来事に対する適応力や誠実さと人々を愛する心が認められ、やがて指導者になります。
効果があるか?自分にはメリットがあるか?と、自分中心の偏狭な判断が巾を利かす現代ではイメージできないほどの「大きな愛」が、アラスカ物語からは読み取れます。第二次世界大戦のとき、ナチスの手からユダヤ人を逃がすために、日本国の命令に背き、最後の最後まで通過ピザを書き続けた在リトアニアの外交官・杉原千畝のまっすぐな背筋と同じものを感じることが出来ます。
蒸し暑い季節に心をシャキッとさせてくれるアラスカ物語。アラスカの厳しくも美しい大自然や当時の文化や風習にも触れることが出来、その熱中できる有意義な時間こそが暑さから解放される時間になるはず。本の整理はさっそく中止です。伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」のロックグラスを片手に、私は黄ばんだページをもう一度めくり始めました。