筍ごはん
No.125 / 2011年3月11日配信
ほんのりと出汁の効いた薄口醤油の香りが鼻をかすめます。永くお世話になっている小料理屋のカウンターに出されたのは「筍ご飯」。独身の部下と一杯やった後、最後の〆に登場してきました。細切りの筍と油揚げを使った、わりと素朴でシンプルな旬のご飯料理です。緑色の小さな木の芽が彩りを添えています。
「合馬(おうま)のたけのこじゃないけど、美味しいでしょ?」と女将さんが声をかけてきました。ブランド品として名を成している「合馬のたけのこ」は京都等の高級料亭にも出荷されているといわれますが、旬の新しい筍ならばブランドものでなくても決してひけはとりません。旨いなあ、といいながら部下はぺろりと平らげてしまいました。
「おふくろの味だよな、筍ご飯は」と私が言うと、若い部下は「僕はカレーかハンバーグですね、揚げ物や洋食系ばかりですね、おふくろの味は」と、ちょっぴり残念そう。「旬の味、和食の豊かさを味わえなかったとは、俺の育った時代とは違うけどチト残念だな」「別におふくろの味じゃなくてもいいじゃない。結婚して奥さんにつくってもらえば」と女将さんは部下を優しくフォロー。
旬のことを偉そうに諭していた私ですが、実は母親に向かって「チェッ、今日も筍か」などと毒づいた一時期をもつ愚かもの。ごめん、おふくろ。胸がちくりと痛んだ時、グラスの中の伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」が「いいさ、そんな過去は誰にでもあるんだよ」と語りかけてくれました。外の雨が降りやむ様子はないけど、「おい、もう一軒行くぞ!」