てっちり
No.122 / 2011年2月11日配信
「二人とも、もう片付けは終わったか?」調理場の後片付けと掃除を終えた調理人とアルバイトの私に、レストランのオーナーは「旨いもん食いにいこう」と言って、深夜のタクシーを呼びました。ミナミまでやってや、そう心斎橋やな」と言ってオーナーはタバコに火を点け、ふ~っと旨そうに煙を吐き出します。
「遠慮せんと、好きなもん食べてや」と言われても、何を注文すれば良いのか判りません。私たちのオーナーは「とりあえず『てっさ』3人前と後で『てっちり』3人前、たのむわ」と注文をした後「唐揚げ好きやろ?」と私に聞いた後、オーダーを追加。「てっちり」に「てっさ」、馴染みのない料理名だったものの、入り口にかけてあった魚の絵で予想はつきます。
「河豚(ふぐ)は美味しいんやけど、当たれば命が危ないというわけで、テッポウ(鉄砲)の刺身が『てっさ』・テッポウの鍋が『てっちり』といわれているんや。まあ、ここで当たることはないけどな」と、蘊蓄を私に聞かせてくれました。毎日、インスタントラーメンばかりでいつも腹をすかせている私には、〆の「ふぐ雑炊」までの全てが夢の時間でした。
河豚水揚げの6割を消費する大阪の夜。「どうや、旨かったか?そうか、よかった。店で一生懸命頑張ってくれてるから、こっちもほんまに一生懸命お返しせんとなあ」。その一言が、鉄砲のようにその夜の貧乏バイト学生の心を打ち抜いてしまいました。テーブルの上の伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」が頷いています。もう、何年も「ふぐちり」を食べていないなあ、そういえば。