フライドチキン

No.116 / 2010年12月11日配信

 繁華街のビアホールのバイトを終えた友人が「鶏の唐揚げ」や「ローストビーフ」を抱えて、私の部屋に入ってきました。「パーティで手を付けてなかった皿があったから、持って帰ってきたよ」と紙のパックを開きました。インスタントラーメンが続く学生アパートでは、夢のようなご馳走です。早速、隣の住人も加えて嬉しい深夜パーティが始まります。

 今からは考えられないほど、残り物を持ち帰ることに寛容な時代でした。おかげで腹をすかした私たちは、時々、身分不相応な師走を深夜のアパートで過ごすことが出来ました。「ところで、今度のクリスマスはどう?」と友人が訊ねます。「ハハハ、パーティだよ、パーティ。メリー・クリスマスだよ」と急な質問に私は少し焦ってしまい、思わずありもしない予定を口にしてしまいました。

 本当はパーティの予定など、彼女もいない私にはあるはずがありません。私は「パーティだよ」と言ってしまった以上、クリスマス・イブに部屋にいるのを悟られたくないので、24日は夜の街を歩き続けました。夜遅く帰り着いた部屋のドアには、「預かりものあり。管理人室へ」という貼り紙がしてありました。預かりものは友人の彼女が、私にもと作ってくれたフライドチキンでした。

 翌日の夜、「お前がパーティなわけないやろ。見え見えやな。それより、昨夜、彼女を泊めたこと管理人のおっちゃんに黙っててや。判る?フライドチキンはそういうお願いの意味や」と、友人はわざとドライを装いました。まるで今の伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」のお湯割りように温かく、私のことをよく解っている友人でした。

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