骨まで愛して

No.106 / 2010年9月1日配信

 じゅっと脂がはじけ、落ちた脂に火がついて、コンロの上に白い煙が立ち上ります。私たち幼い兄弟は土間の台所から漂ってくる焼き秋刀魚の香ばしい匂いに、家中が占領されるこの季節が大好きでした。姿が刀に似ているから「秋刀魚」と書くのよと、母から教えられたことに頷きながら、皿の上の身を突いた頃の記憶は今でも鮮明です。

 母は必ず私たちが食べ終わった後、皿に残った長い秋刀魚の骨をコンロの網で焼いてくれました。「『秋刀魚の骨』は柔らかいし、焼いて食べると美味しいのよ。これを食べるとあなた達の骨も丈夫になるんだから。骨まで愛してやらなくてはね」と、私たちに上手くいい聞かせながら食べさせました。醤油が染みて香ばしい秋刀魚の骨焼きは、どんなおやつより美味しかったと思います。

 今年は北海道で獲れ始める沿岸の秋刀魚が不漁です。海水温が高く8月下旬くらいまでの水揚げ量は昨年の1/10くらいだと驚かされましたが、北太平洋の海水温が低い海域には数多く分布しているとかで一安心というところです。秋刀魚が戻って来るように、日本沿岸の高い海水温には早く低下してほしいですね。行き過ぎた高温をいやがるのは人間も秋刀魚も同じだなぁと妙に納得しました。

 熱々の秋刀魚に、1/4に切ったかぼすをギュッと絞ります。醤油を秋刀魚と大根おろしに少したらして準備万端。そして初秋刀魚に合わせて栓を開く、9月の伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」。秋刀魚をつつき始めるとすぐに骨が見えてきました。骨を食べなくなって何十年経つのだろう。今夜は骨を焼いてみようかな。骨まで愛してか、ふふっ。

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