オクラ

No.102 / 2010年7月21日配信

 独身時代、夏になると食欲が落ちてきて、元気が出ないという時期がありました。仕事で午前様が続いたウィークデー。疲れた身体、解放されない精神状態のまま、ウィークエンドの日曜日はアパートでゴロゴロ。扇風機の風では満たされない、涼を願う夏の体温。冷たい飲み物が美味しいので、ついつい飲み過ぎてしまい、食欲もなくしてしまいます。食欲が落ちてくると、何をするにも意欲が湧いてきません。

 仕事にメドがついた週末の夜、先輩に誘われて小料理屋へ出かけました。「あら、そちらの若い人、何か元気が無いわね。ボーナス出なかったの? まさかそんなことはないわよね?」と女将さんが私の顔を覗きながら声をかけてくれました。そんなんじゃなくて、独身だから生活が不規則。で、きっと夏バテ中でしょ。と、先輩が応えます。「ママ、何か元気の出るものをこいつに食べさせてやってよ」

 土用の丑には少し早いけど、鰻は大丈夫?嫌いじゃないわよね?と、女将さんが蒲焼きと一緒に出してくれた小鉢には、緑色が鮮やかなオクラのスライス。「山芋なんかもそうだけど、夏はこのネバネバとしたものが良いのよ。まあ、若い人には元気がつきすぎて、かえって問題がおこるかもしれないけどね」と、笑っています。女将さんは少し照れた私を、「ふふっ、赤くなって」と冷やかしました。

 最近、夏バテはしなくなりましたが、暑い季節になるとオクラを良く食べます。少し塩で揉んで、ゆであげてスライスに。鰹節をのせてポン酢でいただきます。オクラを食べるときに、よく当時の女将さんの声が甦ります。「あなた、何ニヤニヤしてるの?」と、不思議がる家人の問いには答えずに、伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」のロックをごくり。フフッ。カランとグラスの氷が心地よい音を立てました。

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