祭りがはじまる
No.100 / 2010年7月1日配信
「あんなにお尻を出して、目のやり場に困ります」と結婚する前に、家人が言ったことを憶えています。この締め込み姿が良いんだよ、と、山笠を舁く水法被を着た集団を眺めながら私は応えました。祭りがあるそれぞれの地域と同じように、7月上旬の博多の町では「博多祇園山笠」一色になります。昔ながらの狭い路地にも「オイサ、オイサ」と熱気が溢れ、勢い水が飛び交います。
博多祇園山笠のクライマックスは最終日の早朝にある「追い山」です。15日明け方の午前4時59分に8台ある山笠の「一番山」がスタートします。それぞれが、櫛田入りとコース全体の走りの時間を全力で競うわけです。スタートの緊張感を感じようと思ったら、白い月が薄暗い中空に残る時間に、眠い目をこすりながらホテルを出なければなりません。
祭りがある町には不思議な落ち着きがあります。祭りの様式や規模の大小はあっても、その地域の人たちの間に脈々と流れる、伝統を愛する心に変わりはありません。集団で行うから必要になる正しい規律と周りの人を気遣う姿勢。祭りはそんな精神的な財産を町に残します。ちっちゃな締め込み姿の男の子が必死でお父さんの手を握りしめています。そのシーンは次世代へ手渡せる大切な宝物です。
「期間中はキュウリを食べてはいかんのだよ」「えっ、どうして?」と娘が首を傾げます。「キュウリの輪切りのデザインが、櫛田神社のマークに似ているからだよ」「なぜ、似ているとだめなの? ねえ、どうして?」「どうしてって、とにかくそうなっているんだよ」少し荒っぽく応えてしまいます。「分るように言ってくれなくっちゃ」と娘がやり返してきます。いかんいかん、我が家の「祭り」が始まりそうです。今夜はすこし早めに伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」の時間にしよう。