たこ焼き

No.99 / 2010年6月21日配信

 バイト代支給日の夕暮れ時、私鉄電車の駅を降り立つ私の目には「たこ焼き屋」の屋台の灯りが。バイト代はおやつよりもインスタントラーメンなどの必需品に変わりますが、この「支給日」だけは別です。その日ばかりは財布のひもを少しだけ緩めます。その屋台のたこ焼きはソース味ではない正真正銘の醤油味で、当時、たこ焼きの本場でも珍しかったと思います。

 最初はもの珍しさに惹かれて買っていました。それに、屋台のオヤジさんは私によくおまけをしてくれました。しかし、醤油味はソース味に較べ、さっぱりとした淡白な味わいなので、刺激を求めたがる若い舌にはどこかもの足りません。次第にその屋台は通り過ぎるだけのものになってしまいました。そして、いつの間にかその屋台も営業を止めたようで、卒業を控えた私の記憶からも遠ざかっていきました。

 翌年、初給料をもらったばかりの私は学生アパートの管理人さんに会いに、以前利用した電車の駅を降りました。すると、目の前にはあの懐かしいたこ焼きの屋台が出ているではありませんか。懐かしくなり、手みやげを用意していなかった私は、管理人さんと自分用に2パック注文しようと思い、立ち寄りました。「あれっ、オヤジさんはどうしたんですか?」「病気してまして、いろいろ大変ですねん」

 その若者は学生で、最低限の授業出席以外はたこ焼きを焼いているとのことでした。授業料を稼ぐのも楽やないですわ、と笑っています。「昔、オヤジさんはよくおまけしてくれたし、ん~、10パックくれませんか」と、私は注文数を一挙に増やしました。世の中、助けられたり助けたりです。今度、醤油味を家で作ってみようかな。伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」なら、その味によく馴染むに違いありません。もちろんあの頃の思い出にも。

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