夏至の風景

No.62 / 2009年6月11日配信

 夏至。梅雨の雨に打たれる紫陽花が、細かく揺れ動いている情景が目に浮かびます。高校2年生の放課後。校舎の二階より見下ろす自転車置き場の脇に咲いている赤紫の紫陽花。一人の女生徒が現れ、降り出した雨を気にしながら自転車の錠を解いていました。

 梅雨の間も通学路で何度となく出会いながら、その娘に一度も挨拶の言葉をかけられなかった情けない自分がいました。好きになった人に声をかけたい思いは募りますが、目の前にその娘が現れるとダメになります。緊張してしまって声になりません。その都度、ため息よりも重い6月の湿気が、若すぎる私を包み込んでいたのを思いだします。

 明日こそは、きっと。ラジオの深夜放送、リクエスト曲。悩み相談に応えるディスクジョッキーの声。机の上では数学の問題集が開かれたままです。悶々としながら過ぎる夏至の夜は、一年中で一番短い夜。雨音が止って、近い夜明けが机の前の窓を白くします。今日こそは、きっと。

 ふふっ、自分にも思い詰めていた可愛い頃があったのだなぁ。なぜか夏至の頃に湧き上がってくるのが片想いの記憶です。おじさんへと変貌した今の私は、イサキの塩焼きをつつきながら、伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」をゴクリ。昔「片想いの彼女」、今「幸蔵」。一途なところだけは、そのころと全く変わっていません。

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