初鰹
No.23 / 2008年5月11日配信
「目には青葉
山ほととぎす 初かつお」
江戸時代に詠われたというこの俳句は、記憶力の悪い私でも憶えているほどです。それは鰹が「初夏」の季節に欠かせない味覚として、江戸っ子の「粋な食習慣」に支えられ、広く伝えられきたからでしょう。黒潮に乗って太平洋側を北上する鰹は、秋に親潮とぶつかる三陸海岸沖で反転して南下するのだそうです。初鰹は北上途中の5月に水揚げされるもので、南下を始める9月の戻り鰹よりも脂の乗りが少なく、さっぱりとした味わいです。
マグロの大トロはもちろん、和牛の霜降り、豚肉でも「豚トロ」と呼ばれる部分が賞賛されるイマドキの世の中。脂が乗り切っていない初鰹にとっては、「脂の甘み」が支持されるという、アゲンストの風が吹き抜ける苦しい状況です。それでも、五月になれば気後れもせず颯爽と登場する姿は「粋」の極み。旬の代表としての重責を果たすなど、それはもう感涙ものです。まるで「五月の風」のような趣で舌に触れ、食感さわやかに喉をくぐり、そして腑に落ちていきます。江戸っ子でなくても、誰が拍手を忘れましょうか。
「ヘルシーっぽくて、いいかもね」と娘が宣います。何がヘルシーだ、粋だよ、粋! わかんねえだろうなこの感覚が。と、急に関東風の意気込み方になる自分が可笑しくなる季節です。初鰹には伝承かめ壷造り本格米焼酎「昔気質」と決めています。どうやら粋な同士は惹かれ合うようです。