二人っきりの成人式
No.11 / 2008年1月11日配信
「あら、帰ったんと違うの?」と、成人式に帰省しなかった私を、夕方に見つけた学生アパートの管理人。私が帰省出来るだけのお金を持ってなかったことをきっと見抜いていたのでしょう。その管理人のおじいさんは、夜、私のインスタントラーメンだけの食事が終わる頃にドアをノックしてくれました。
管理人は使い古した電熱器と小さな段ボール箱、そして焼酎の瓶を下げて部屋に入ってきました。毎夜、近所の自宅に帰る管理人は「今日はうちのばあさん、妹のとこに行っとるさかい、ワシは独り身や。一緒にどうかと思うてな」と、私に湯を沸かすよう言うと、さっさと電熱器の上で餅を焼き始めたのです。
あんたは九州人だろうから焼酎飲めるはずと、お湯割りを作ってくれ、「砂糖醤油で食べるのがうまいんや」と焦げ目のついた餅をくれました。寒風舞う冬の都会の安アパートの一室で、おじいさんは私のために成人式をあげてくれたのです。今でも私は初めて飲んだ焼酎の味と管理人のおじいさんの顔を忘れることが出来ません。
実はすでに、管理人さんがその夜の何年も前に奥さんを亡くされていたことを私は知っていました。米焼酎・伝承かめ壷造り「昔気質」が飲みたくなる成人式の夜です。