デイパック

No.527 / 2022年5月1日配信

 小学生の頃、全校生徒で行く「遠足」が大好きでした。母親が作ってくれた稲荷弁当と五十円以下(だった?)のお菓子を詰めたリュックサックを背負って、ワクワクしながら校門をくぐったものでした。小さい私たちは「リュック」と呼んでいましたが、そのリュックサックはドイツ語から来ているようで、日本におけるアウトドア文化がヨーロッパから持ち込まれたことがわかります。

 そんなリュックも今ではデイパックと呼ばれていますが、私にとってディパックはアメリカ文化の象徴のように思えてなりません。若い頃の米国におけるキャンパスライフ・イメージはデイパックを肩にかけたとても自由な雰囲気でした。垢抜けしない自分と比較しては、溜息をよくついたものでした。米国の学生のデイパックには自由と一緒に苦悩も詰め込まれているのを知りもしないで…

 私は古典的なティアドロップ(涙滴)型シルエットのデイパックをもう30年も使っていましたが、遂にショルダーストラップが切れてしまいました。革の部分がプッツンするなど、普通では考えられないハードな使い方だったのかもしれません。通勤からレジャーまでなんでもこれ一本でした。ひとつのものを使い込むことが性に合っていたので、今のこの状況に大変戸惑っています。

 1982年に「日本の川を旅する」で、日本ノンフィクション賞新人賞をとった野田知佑さんがこの3月に亡くなられました。アラスカの自然を伝えてくれた星野道夫さんと共に、私の心の支えだった方です。不要なものは捨て去り、バックパックひとつの自由な精神を貫き通した人かもしれません。壊れたデイパック、そして野田知佑さん。お疲れ様でした。伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」で今夜は静かに心の旅をします。

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