ビリー・ホリディ

No.450 / 2020年3月11日配信

 大学3年の春休み、私は大阪のとあるレストランでアルバイトをしていました。最初はホールの給仕からスタートし、途中からは厨房内で料理のアシスタントも業務となりました。当時、20代後半の個性派料理人と何故かウマが合い、夜勤が終わると一緒にその料理人のアパートによく遊びに行きました。油絵を描くその人の部屋はいつも絵具の匂いが充満していました。

 初めての時、すぐに密閉型の大きなヘッドホンを渡され、深夜にジャズを大きな音量で聴かされました。その人はいきなりチャールズ・ミンガスのアルバム「直立猿人」に針を落とし、曲が全て終わると「結構革新的なジャズだけど、どうだった?」と声をかけてきした。「すみません。よくわからなかったです」とフォークやロックが好きな私は答えました。

 「いや、分かるか分からないかではなく、好きか嫌いか、何か感じることができるかなんだけど」と言いながら、次のアルバムをターンテーブルに乗せます。「どちらかと言えば僕はボーカルの方が好きだ。この声、ベターッとしているけど、ビリー・ホリディって言うんだ。これでも彼女の人生後半の曲に比べると、初期の曲だし、声に張りがあって聴きやすい方なんだ」。

 「彼女の人生が聴こえるんだよ」。人種差別や薬物依存を含めた壮絶な一生も、残念ながら若い私には聴き取ることはできませんでしたが、あのKさん、今頃どうしているかな。伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」でも一杯やりながら、今度は自分たちの人生を語りたいな。奇妙な果実をBGMにして。おかげさまで今でも私は料理もジャズも大好きです。

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