あさりの酒蒸し

No.304 / 2016年3月1日配信

 3月の桃の節句には同じ2枚貝でも、「あさり」ではなく「はまぐり」が主役の座を守っています。ひな祭りではチラシ寿司とともに、はまぐりのお吸い物は定番中の定番で、我が家のその日は圧倒的多数(?)の2対1で、私の意見はどんなことがあっても通ることはありません。たとえ、どんなにあさりの酒蒸しが食べたいと念願しても。

 良縁を招くとも言われる縁起の良いはまぐりですし、もちろん大好きな貝ではあります。そのつるんとした食感、癖のない旨味、食べ応えには、「貝の女王様や?」と諸手を挙げて賛成するほかはありません。ただ、昔から付き合いも長く、身体も一回り小さいあさり貝だから、判官贔屓気味ではありますが、あさりにもエールを送りたいのです。

 春から初夏にかけてよく潮干狩りに行ったものです。熊手とバケツを持って、その日の大切な夕食のために頑張った幼い頃のことを思い出します。母と兄と連れ添って、バケツの戦果をぶら下げて、海に開ける河口からの帰り道。自慢げな兄と兄に採取量で競り負けた私。母は悔し気な私に「頑張ったじゃない。次は勝てるかもよ」と慰めの言葉。

 大人になってもあさりに対する思い入れは強いままです。「産卵前」の今頃が美味しいんだよ、と毎年決まってこの頃に家人にリクエスト。「そうね、はまぐりの次はあさりかもね。ワイン蒸しでね」と娘が口を挟みます。いいや、伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」には「酒蒸し」だろう、と口に出かかった不満を飲み込みました。ひな祭りだから、まあいいか。

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