メバル

No.411 / 2019年2月11日配信

 早春でした。指先が痛いくらい冷たくなっても、釣り竿を握りしめていました。近場の磯で寒さに耐えながら、数少ないアタリに希望をつないでいたあの頃を、懐かしく思い出します。深場に落ちているクロ(メジナ)もチヌ(黒鯛)も気配を感じさせません。そんな時、クイッとウキを沈めてくれて、凍り付いていた心を溶かしてくれる可愛い存在がメバルでした。

 釣り上げた小ぶりのメバルを保冷キャリーケースに放り込もうとしたら、右手の中指と薬指の感覚が鈍くなっているのに気付きました。そばにいた友人は、凍傷になったのかもしれないねと言った後、ホッカイロを渡してくれました。「凍傷」の2文字が頭の中でどんどん大きくなっていくではありませんか。指先がない登山家のことも脳裏を横切ります。

 帰りの渡船の中、温めていたホッカイロを外して、指先の感触を確かめても鈍いままです。不安が広がり、頭の中は「指切断」まで不吉な思いは進んでいきます。友人は「大きいやつは刺身でもいけるけど、やっぱり煮付けが一番だよね」と釣れたメバルの今夜の食べ方を話し始めます。それどころではありません。私の耳も目と一緒に宙をさまよったままでした。

 指先に感覚が戻ってくるのに半年以上の月日がかかりました。「お前、あの時は本当にひどい顔してたな」と友人は今でもからかいますが、もう、「釣り人の勲章さ」と笑って済ませることもできます。今、まさにメバルの季節。さあ、濃い目に煮付けたメバルを肴に、伝承かめ壷造り・本格芋焼酎「幸蔵」のお湯わりで一杯!楽しみです。新鮮なメバルが手に入らないかな。

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