放生会(ほうじょうえ)
No.178 / 2012年9月1日配信
各地の八幡宮で催される放生会の季節を迎えます。放生会は万物の命をいつくしみ、殺生を戒める神事として知られています。博多のまちでは「放生会(ほうじょうや)」と呼ばれ、9月の中旬に行われ、多くの参拝者が足を運びます。残業に明け暮れていた若い頃、残暑の夏が終わりを告げ、秋の始まりをしっかりと感じさせてくれたのがこのお祭りでした。
「おい、明日は帰りにみんなで放生会に行くぞ。残業しなくても良いように、早く終われる段取りをしとけよ」と課長がチーム全員に声を掛けます。この号令が、仕事の進め方に難のある入社一年目の私には、なんとも恐ろしく聞こえてしまいます。翌日、死にものぐるいで仕事をこなし、なんとか出発の午後6時に間に合わせたものでした。
筥崎宮の1キロメートルの参道には多くの露店が並び、大勢の人で賑わっています。チャンポンといわれる、絵が描き込まれたビードロが売られています。ペコ・ポコという音を立てるビードロは愛嬌があります。特別なおはじきも有名です。葉が付いたままの新生姜が露店に並んでいます。しかし、お腹をすかせた若い私は、醤油が焦げて香ばしい「イカ焼き」に心は乱されっぱなしでした。
私たちはお気に入りの一軒を見つけ、その大きな簡易テーブルに座り込み、乾杯。そして、参道の喧噪に囲まれながら、私たちの生命も酔いとともに解き放たれていきます。部下に仕事の重圧から放生される夜を演出してくれた課長の心が、今、やっと解るようになりました。伝承かめ壷造り・本格芋焼酎『幸蔵』のカップを片手に、懐かしい遠い夜を探っています。あの課長に乾杯。